5. 緊急警報発令

そして8月の終わりに2回目の早期退職制度の説明会があった。目標としていた人数が集まらなかったので再度告知したいうわけです。最後に、「次回から個別に連絡します」という話になった。まったく、こんな状況になっても自分が対象になっているなんて思わなかったんだから呆れるよな。

そしてその連絡はメールを通してきた。「重要な打ち合わせがあるので来て下さい」と。指定の部屋にいくと人事部長と常務が並んで座っていて。ひとしきり会社が努力してけれどリストラしなくちゃならない理由を話した後、「早期退職を検討してくれないか」とズバリいわれた。

「拒否できますか?」
「できるけれど、整理解雇になりますよ。そうすると早期退職でもらえる手当がなくなります」

といわれた。「どっちにしてもクビなんですね?」と尋ねたがふたりとも言葉を濁す。都合の悪いことは言葉にしないんだな、会社はもうイラネって思ってんだなと思い、視界が一瞬真っ白になった。

うすうす思っていたとはいえ、はっきりクビだと宣言されたわけで。信じたくない気持ち、いやありえんやろ、と。そんな酷いできるわけがない。いろんな思いが錯綜して。本当に吃驚するとこんな状態になるんだね。動悸が早くなって汗が吹き出した。「考えておきます」と応えて部屋を出たとき平衡感覚がおかしくなってたよ。

そして1番の心配はなんといっても嫁になんというか、だ。子育て真っ最中で一番荒れている時期にこんな爆弾を投下するなんて、命がいくつあっても足りない。足りないけれどいづれ話さないとダメなわけで。結局一週間後に話したんだが、その隠していた期間のしんどいことといったらなかった。心臓にナイフ突きつけられて一週間だった。

いざ、嫁に「クビになった」と伝えたところ、激しく狼狽しおいらを5時間説教。なお嫁の説教は最長12時間連続というのがあるので、この程度は楽勝なのですが、そのあと会社、社会、人生、おいらの存在すべてを否定する論証を聞かされるハメに。とくにおいらの人生の歩みについては手厳しいというか。

嫁「普通の人間なら首にならない。よっぽど欠陥があるんじゃない? 私だったらぜっっっっっっったいクビにならないけどね。なぜなら首にならないように結果を出すから」いやー、まあなんというかね、理屈は正しいのかもしれないがあれなんだよね、おいらは技術者ではあるんだけれどもさ。

仕事って、ある人間が欠けたら回らない、ということになったら困るから極力属人要素を排除していくわけですよね、フレキシブルにできるように。おいらの部門やチームではおいらを旗頭に徹底した切り分けを行ってきたので、正直いくらでも入れ替えが効く仕組みにしてたんだよね。で、おいらが対象w。

逆に、確かにあの人しかできない、ってな仕事を抱えていた人はクビにはなっていなかったけれど、それは専門技術を極めた個人技能の体現なのか、単に業務の切り分けができず整理できていないだけなのかは、おいらからは言えないけれどさ。まあそんなわけで、クビ宣言されてからは家に居づらくなった。